皆さんこんにちはbikeport横浜西口店の小林です。
本日は日本では希少なオールドMTBをレストア致しましたのでご紹介させていただきます。
今回ご依頼主は私の嫁のお義父さん。 ※厳密には依頼など受けておらず勝手持って帰ってきた(滝汗
嫁の地元岡山に帰省するたびにお義父さんと自転車でサイクリングに行くのが定例となっていましたが、各パーツが限界を迎えており、4回目のサイクリングでついに貧脚のうちの嫁が前を引っ張るという事態に。
素晴らしいエンジンを持っているのに、機材の不調によって快適に走れないのは自転車屋としては黙っておれず、お義父さんの意思とは関係なく、神奈川に勝手に持って帰ってきました。汗
また家族からの車体の乗り換えの提案もあったようですが、思い入れもあるフレームらしくこの先も使いたいということ←ここだけ尊重
でレストアさせていただくことになりました。
VooDoo BIZANGO
20年前に購入された『VooDoo BIZANGO』イギリスの名クロモリ‐メーカーReynoldsの当時最高級スチール853を用いた高級MTBフレームです。
完成車では販売があったか不明ですが、店舗側で構成した車体と思われます。
現状の構成
フレーム自体は当時としては先進的なフレームとなっており、インターナショナルスタンダードマウント(以下:ISM)を採用、ヘッドはオーバーサイズのアヘッドタイプ。
ボトムブラケットはJISタイプでねじ切り68mm エンド幅は135mm クイック仕様になっています。
採用されていたフロントフォークはRSTの26インチサスペンション。ISM仕様。 ダンバーはおろか中のコイルまでグズグズになっており、ほぼ機能していない状態です。
採用しているメインコンポーネントはSHIMANOからわずか2年だけ販売された DEORE LX M580シリーズ。
ロードバイクに採用されるSTIを踏襲するデザインになっており、ブレーキとシフティングを両立させた仕様となっているため、このMTB用のブレーキレバーを縦に押し込むと変速する仕組みになっています。現在ではブレーキレバーと独立した2つのシフトレバーを押し込むラピッド・ファイアー式が主流となっていますが、ほんの僅かな期間SHIMANOも一つのレバーでシフトとブレーキを両立させた期間ありましたが、当然ブレーキを引きながら変速するには非常に操作性が悪くわずか2年という期間で販売が終了となりました。
搭載されていたブレーキは、ワイヤー式のDISCブレーキでISMから現代主流のポストマウント(以下:PM)タイプのブレーキキャリパーが採用されていました。
20年間酷使していたこともあり、ブレーキキャリパーのリリースバネがヘタっておりブレーキレバーをリリースしてもピストンが戻らない状態(ブレーキかかりっぱなし)になっていました。
応急的にヘアゴムを取り付けリリースの張力を保っていましたが、とても快適とは言えませんし保安上非常に危険でした。
ドライブトレイン(駆動部)は3×9速仕様で、フロントは44-33-22T←失念した リアは11-34Tぐらいだったと思います。MTBなので急な坂道まで対応できるようかなりワイドレシオ仕様です。
一番軽いギアでギア比0.6ぐらい。一番重いギアでギア比4 お義父さんの使い方的には山を走るわけではないのでここまで軽さは必要なさそうです。
当時はこれで12時間耐久レースなども出場されたいたようですし、最近は私達といっしょに50km程度のサイクリングや、たまにグラベルライド、たまに通勤で使うといった感じです。
ギアとチェーンを検査してみると、真ん中のギアがかなり摩耗(尖っている)しており、その次にアウター側(一番大きいギア)が摩耗しているのがわかります。
チェーンとギアの間には隙間が生じ、インナートップでかけてみるとチェーンステーにチェーンが当たるほど伸びていました。(おそらくインナートップは使うことがなかったので気づかなかったのでしょう汗)このことからギア比3から0.9あたりのギアを多用していることがわかります。基本的にはギア比1以下であればオンロード走行からグラベルライドまで対応は十分できるので最低のギア比は0.9あたり、オンロード走行が多いので最大ギア比は3.5~あれば問題なさそうです。
フロント変速はギアの巻取りが渋く、シフトアップがしにくい状態でした。このためほとんどフロントに関しては固定で走っていた可能性があります。
リアの変速に関してはフロントほどではないですが、ラピッド・ファイアーよりレバーストロークも多く変速がし易いとは言い難い状態です。
リアディレイラーのプーリーも摩耗しすぎておりご覧の通り歯が尖っています。
ホイールは、26インチのMAVIC317リムでハブはLX 当時は完組スペックであったものでしょうか。
フレームのクリアランスを現行のクロスバイクに採用される700C/29インチのホイール・タイヤをはめて確認してみると、取り付けできることがわかりました。
構想としてはオンロードがメインなので、ホイールのサイズ(インチ)アップは好ましいと感じていました。(ホイールサイズが大きいほど走破性が高いため)
しかしこのフレームは26インチ用に設計されているため、極端なインチアップを行うと乗車位置が高くなりすぎる可能性がありました。(BBハイトが高くなる)
BBハイトが高いとオフロードではペダルが岩などにヒットしにくくなるメリットがありますが、オンロードでは高重心は安定性が悪くなります。
今回はフロントフォークも差し替えることも予定していましたので、フォーク選びも同時に行う必要がありました。フォークもホイールサイズが大きいもの用を選んでしまうと肩下寸法が長くなり、ヘッドアングルやハンドルからホイールまでの距離も極端に変化してしまうと、乗り心地や操作性に悪影響を与えかねません。
フレームはここまでのことを想定して設計されていたのかはわかりかねますが、かなり自由度の高いフレームのようです。
フォークに関して山を走るわけではないので、今回はリジットフォーク(サスペンションではないタイプ)を採用し、軽量化することにしました。
クランクとボトムブラケット(以下:BB)に関してはホローテックⅡタイプを採用していたので、下手にスクエアタイプの物に変更してしまうと改悪になってしまうので、足回りの硬さはしっかり残していきます。
BBを外すと20年分の汚れが溜まっていました笑
ヘッドセットに関してはボールベアリングタイプのヘッドが圧入されており、グリスも乾ききっています。
フレーム自体も全体的にくすんでいるためコンパウンドによるクリーニングが必要でした。
今回はこのVooDoo BIZANGOをお義父さんの使用用途にあわせて、最新の規格で構成し直していきます。
カスタマイズ構成紹介
さていよいよ今回の構成編です。
先述した使い方を踏まえ、フレーム以外は“全て”交換します。
今回採用するメインコンポーネントはSHIMANOから2023年にデビューしたばかりの新型コンポーネント『CUSE』を採用します。
細かい説明は今回の記事では割愛しますが、SHIMANOの9Sから11SまでのMTBコンポーネントをカバーし、トレイルライドからアーバンライドまでカバーする構成をラインナップしています。
またSHIMANOが誇る最新の成形技術で従来のコンポーネントに比べ3倍耐久、変速が3倍スムーズという特徴があります。コンポーネントを載せ替える機会はめったにありませんから、これから次の20年しっかり使えるコンポーネントを採用します。
変速段数は2×9速 ギア構成はフロントが46-30T リアが11-36T
この構成だと一番軽いギア比が0.83、一番重いギアで4.1 今後耐久レースに出場しても踏み切ることも、坂道で上りきれないということもない理想のギア構成になりました。変速段数もフロントは3から2段にはなったのでシンプルなシフティングが可能になりました。
こちらもヘッドと同様にクリーニングとグリスアップをしていきます。
BB規格自体は変わりませんが、20年ぶりに新しいBBも入れ替えましたからもう20年頑張ってもらいましょう。
どんなもんでしょう。クランクが変わると雰囲気もだいぶ変わってきますよね。
フロントディレイラー
リアディレイラーは転倒時のトラブルに強いシャドータイプ。見た目もごつくいかにも頑丈そうです笑
元々珍しいタイプで変速していたので、ラピッドファイアータイプが違和感を感じるかもしれませんが、タッチも軽くブレーキとも独立しているので操作はかなりしやすくなったはずです。ブレーキから指を離すことなく変速できるので、LXの思想をしっかり継承しています。
ブレーキはワイヤー式から油圧式へのアップデートし、今までより楽にブレーキコントロールが可能です。悪天候下でもしっかり利いてくれるのも魅力の一つですね。
2フィンガーでも1フィンガーでも指がひっかかりやすくレバーの初期位置調整も指の長さにあわせて調整できるのが魅力です。
ホイールに関してはグラベルライドでもかかりが良く、脚力の強いお義父さん力をしっかりと伝達でき、フレームのロゴにあわせて紅いFIRE EYE製のハブ、グラベルライドも想定した太めのタイヤとも相性の良いFORMOSAの軽量アルミリムを採用、ホイールサイズは26インチから27.5インチホイールにサイズアップし普段のサイクリングでもより速いスピードで走れるよう手組で構成しました。
遠方に住んでいることもあり、あまりメンテナンスができないので、ホイールは2クロスで組みあげました。
ニップルもさり気なく赤を採用。
ブレーキローターは放熱性の高いXONの2ピースローター160mmを前後に採用。
カラーが選べますがここはあえて黒をチョイス。
フォークはSOMAの1-1/8ラグディスククロスフォーク(ISM) TANGEのインフィニティークロモリ採用。
サスペンションに比べシンプルでトラブルもなく、フォーク自体が軽量なので車体を軽量化に大きく貢献してくれました。
計測してみたところタイヤ幅も45mmぐらいはいけそうです。
普段開けることのない部分ですのでクリーニングとグリスアップを入念に行います。
ヘッドセットはHEAD UAの赤ヘッドセット ベアリングもシールドベアリングになり精度耐久性ともにアップ。
シートクランプはウルフトゥースのクイックリリース式クランプと差し色に赤を。
ハンドルやシートポストはマウンテンバイク黎明期をリードし、クロモリフレームなどとは相性の良いRITCHEYをチョイス。オールドMTBにはその当時流行った構成などを元に構成できるかはスタッフのセンス次第ですね。私はセンスない方ですので、古いバイク構成は福田に問い合わせてください。笑
ハンドルはRITCHEYの WCS 2X ライズ量も少ないので前傾姿勢でガンガン踏んでいけます。
標準だと740mmと長過ぎるので600までカット。
シートポストはRITCHEYの WCS 1ボルトポスト
サドル RITCHEYの CLASSICサドル 渋さを引き立てるためブラウンを採用してみました。
ペダルはgrunge のフィフティーペダル ブランドでというか金属製で高級感あるものを選びました。
フレームはコンパウンド磨き上げくすみを取り、仕上げにWAKO’Sのバリアスコートで防錆、防汚、艶出し。
before
after
グリップにはGIANTのバーエンド付きエルゴグリップを採用。ロングライドやヒルクライム時に活躍しそうです。
そんなこんなで性能もデザインもこだわりつつ完成したのがこちら
いかがだったでしょうか。
フレーム以外は全てのパーツを交換し、フレームの付属ボルトも全てアルマイトの赤カラーに変更しました。
嫁がまだ10代の頃に、お義母さんに頼んで買った思い入れのあるフレームだと聞きました。
大切なフレームをそのままに、最新規格のパーツを盛り込むことによって、これから先10年20年とまた沢山の思い出をこの自転車と共に作っていってほしいと想いを込め一切の妥協をなしに構成しました。
妥協をしないということで、構成費(パーツのみ)が40万を超えたのは色んな意味で震えました。滝汗
※当初のヒアリングでは、黄色のパーツを入れてほしいとのことでしたが、私の方で勝手に赤色を差し色として採用しました笑 (ヒアリングの意味笑)
さっそくシェイクダウンで香川の小豆島を一周してきましたが、まだまだ微調整が必要そうです 笑
この記事の投稿者…